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コラムColumn

総合物流施策大綱(2017年~2020年)について考える④ ~ 災害等のリスクや地球環境に対応する物流 ~

≪2018.07.04≫

◆はじめに

 総合物流施策大綱について考えるというテーマも今回で4回目になる。
今回は「災害等のリスクや地球環境に対応する物流」ということで筆者の経験も含めて考えてみたい

 このコラムを執筆中に大阪北部地震が発生した。被災された皆様には心からお見舞い申し上げます。

 災害のリスクについては想定外ということもたびたび言われる。できるだけ幅広くリスク管理をすることが重要だということは十分承知しているが、なかなか実現できないのも事実である。

この大綱では、以下の課題に備えるということが重要だと述べている。

(1)災害等のリスクに備える
  ①   災害に強い物流システムの構築
  ②   物流の社会インフラとしての機能確保のための老朽化対策
  ③   セキュリティ対応
  ④   大規模イベント等における対応


(2)地球環境問題に備える
  ①サプライチェーン全体における環境負荷低減の取り組み
  ②輸送モードの省エネ化・低公害化


◆災害等のリスクに備える

 災害に強い物流システムとはどんなものだろうか。災害発生時に混乱を避けるための事前検討が最も重要で、官民が連携した支援物資輸送体制を準備しておくことだろう。

 筆者は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の時、当時在社していた会社の「震災対策委員長」をした経験があり、その時実感した課題を述べてみたいと思う。

 まず、早期の支援体制発足が重要:発生時から数時間後には対策委員会を社内に設置、具体的な課題や対策を共有・検討した。当該地域には物流センターが六甲アイランドに、商品センターが三田市にあった。

 両センターとも商品落下などの被害はあったものの、建屋や人的被害はなかった。勿論、この震災を事前に想定して訓練や建屋設計はしていない。ただ、六甲アイランドのセンターは新設した時点でフローティング工法を採用していたため、建屋の揺れは相当吸収され被害を最小限に抑えられた。今後の拠点設計にはこの点も大きく反映すべき項目だと考える。

 対策委員会が、まず最初に行ったことは従業員の安否確認であった。社員は早期に連絡がついたが、パートさんについてはなかなか連絡が取れず、安否確認に時間がかかった。連絡体制の整備についての大きな反省材料になった。次に、全国の商品センターのメンバーを中心に応援体制の立ち上げを行った。彼らを現地に投入し、商品整理と出荷体制の確立を順次行っていった。当然のことだが、彼らの食糧対応や安全対策も十分に考慮して実施した。

 一方、近畿地区の大手量販店から無償でトラックの手配をするよう要請があり大混乱の中で必死に手配した。これは当社としても現地の困窮を少しでも早く救いたい一心で進めたものだった。物流センターのある六甲アイランドは橋でつながっているが、その橋に段差ができ大型トラックの通行が不可能になった。したがって、そこの在庫商品は出荷できなくなった。ほとんどの販売部門は各地の商品センターに在庫を保有していたので、大きな問題にはならなかったが一部門だけ六甲アイランドにしか在庫がなく出荷不能状態が長く続き、お客様にご迷惑をおかけした。このことで、拠点の複数化がリスク回避の基本だということを実感した。

 この時のエピソードであるが、関西に店舗のないコンビニ系列のS社が被災地区におむすびを無償提供するため隣のポートアイランドにヘリで着陸した。この時、3時間ほど時間が空くのでヘリを使って商品を六甲アイランドから搬出したらどうかという申し出をいただいた。大変うれしく即座に検討したが、六甲アイランドのセンターにはヘリポート機能がないため、許可が下りず、活用できなかった。ここでの反省点は拠点からの通行手段は、特に島の場合、陸海空と複数持たなければならないということだった。


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 この時おむすびを被災地域に配布し、またヘリの有効利用をご提案くださったコンビニS社の被災地全体にどう貢献するかという企業姿勢を目のあたりにし、筆者としては企業姿勢がいかに重要かを実感した思いがある。そのS社は現在では全国に店舗展開し新しいサービスを次々と実現し、社会貢献を続けている。

 この経験を踏まえて、災害に強いロジスティクスとは、次のテーマに絞られよう。
  ①   組織の連絡体制の構築と訓練(特にパートなどのメンバーとの連絡体制は重要)
  ②   拠点の複数化(拠点の集約化時も必ず2拠点以上は必要)
  ③   輸送網の複数化を確保しておく(陸海空での対応も視野にいれる)
  ④   拠点の耐震化対策(前述のフローティング工法なども有効か)
  ⑤   老朽化の対策も急がれる。

◆地球環境問題に備える

 サプライチェーン全体における環境負荷低減の取り組みとして、化粧品の共同配送の実現を推進したことがある。有力化粧品メーカー6社が物流の共同化をテーマに委員会を発足させ、筆者もそのメンバーであり、北海道を皮切りに全国での共同配送実施を進めた。
 その結果、CO2排出量の15%低減を実現できたことはコスト低減とともに目に見える効果だと思う。

 また、輸送モードの省エネ化・低公害化については、ユーザーである企業としては、輸配送における省エネ化を目指したモーダルコネクトや低公害車の積極採用など、企業の社会的責任において進めることがこれからの企業の生き残り戦略でもあると考える。

 地球環境問題は、最近の異常気象などを見ても最重要項目であるということには異論をはさむ人は少ないと思う。具体的な行動を、小さいことからでも実践していくことが大切なことだとコンサルタントとして、声を大にして言いたい。

 次回は、新技術(IoT、BD、AI 等)の活用による「物流革命」について、著者もかかわってきた事例を中心にお話ししたい。




著:長谷川 進(㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)