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コラムColumn

総合物流施策大綱(2017年~2020年)について考える⑥ ~ 育てる ~

≪2018.08.29≫

◆はじめに

 総合物流施策大綱の最後の項目は「育てる」である。この育てるという言葉には2つの意味があり、物流人を育てるという意味と物流に対する国民の利用者としての理解を深めるという活動が込められているようである。

 今回の大阪北部地震や西日本大水害のようなリスクに対して、物流がどこまで迅速に対応し国民生活を平常化できるかは大きな課題だと感じる。インフラの整備や復旧は勿論だが、代替手段の確保計画などBCPにつながる施策を根本的に考えなければならないと実感している。

 物流は、単に輸送のみでなく在庫計画や拠点設置計画などのプランニング分野、物流センターや輸配送関連分野など多くの人たちが関与している。様々な分野での人たちを育てるということは、多様な教育体制が必要であろう。

◆物流人への研修

 当社も、ロジスティクス企業を対象にした「物流研修プログラム」をいくつか持っており、その企業を対象にしたプログラムを都度カスタマイズして実施している。業種や業態によりその内容は異なるが、基本的な原理原則は同じだと考えている。

 研修によってどのように人は変わっていくか。例えば自社製品のみを扱っていた物流センターが電気量販店の物流センターとして変革する際に、幹部社員の研修を行ったことがある。自社センターから量販店のセンターに変革するためには幹部社員には大きく2つの点で意識改革をしていく必要があった。

 量販店のセンターであることから、当然だが、他社製品知識を獲得する努力が重要だった。また、その量販店が必要とする商品を、店舗ごとに仕分けし一定のリードタイムで店着させる必要性があった。つまり自社製品を大ロットで顧客企業へ納品する従来の形式から大きく変化することが大切だということを理解いただくような研修を実施した。

 もう一点は、量販店が要望するKPIを順守することの重要性である。従来は自社で決めたKPIを守ればよかったが、顧客である量販店が決めたKPIを順守するという違う視点での管理方法を会得することが、業績の拡大につながるという事実を知ってもらいたかった。

 この研修で、自社の視点から顧客そして最終消費者の視点での業務推進できる人材へと変わっていった。

 各地のトラック協会への研修にも参加した実績があり、とくにデジタコによるドライバー管理の在り方、今日的にいいかえると働き方改革による長時間労働の改善を目指した研修も進めてきた。ドライバーの管理体制、荷役分離による女性ドライバーの育成など、ドライバー不足を解消するためのロジスティクス企業の管理職への研修が大きな意味を持つと考える。

◆変化する物流に対応できるような自己研鑽

 物流業界全体にもIOT、BIGDATA、AIの波が徐々に浸透してくる状況にある。自動運転やピッキングの自動化による効率性向上、予測精度の向上による在庫問題の低減など情報化による効果も出てくるが、それらについて物流人としても上手に利用できるよう努力していかなければならない。また、それらに頼りきりになるリスクについても考えなければならないことは前回のコラムでも指摘した。

 もう一つの課題はグローバル化に対して、特にこれからの貿易相手となるASEAN諸国のロジスティクスについて、積極的に学び実態を知ること、そして何が貢献できるかを考えることも必要になってくる。ASEAN諸国の貿易額は現在でも日中間のそれとほぼ同額であり、重要な地域である。

 まだまだ、開発すべきインフラの問題や消費力の源泉であるGDPの伸びなどを見ながら、ASEANへのロジスティクスゲートウエイはどこにすべきかなども物流人としては知っておくための自己研鑽をしよう。

◆物流に対する啓発活動

 自然災害などで供給ルートが断たれた時にはじめて、国民は物流の重要性を実感する。しかしながら、本来は平常時に物流がいかに大切か、どのように社会貢献しているのかを知ってもらう活動を物流人として行っていくことが必要だと思う。

 物流は消費者が望む安く・早く届けるということが使命のように考えているが、本来はこれにECOなどの社会貢献を加えていかないとロジスティクスとは言えないと感じる。

 安く・早く届けるということが、効率化によって実現するのであればいいことだと考えるが、他社との競争で労働環境を悪化させながら実現する場合や不必要に早く届けるという意味のない競争になっているであれば社会貢献にはならない。ECOと消費者の要望とをバランスよく組み合わせたモーダルコネクトのような仕組みが普及することが日本社会でも絶対に必要なことだと確信している。

 物流モーダルコネクトは、国内貨物輸送量の約9割を占めるトラック輸送と、空港・港湾・鉄道駅との接続を強化することで、生産性の高い物流を実現しようとする動きが始まっており、これからの物流の主流にならないといけないのではないか。

 こういったことを、国民の皆様に知っていただけるような啓発活動はどうしたらいか、物流人としても真剣に考えたいものだ。

 政府が発表した総合物流施策大綱について6回にわたって、コラムを掲載してきた。この総合物流施策大綱は 社会状況の変化や新たな課題に対応できる「強い物流」を構築するために、物流の生産性向上に向けた、6つの視点からの取組を推進していくものであり、少子化が進む日本における物流の在り方を示唆している。

 この6つの視点からのアプローチを着実に推進していくことを物流人全体に伝えていきたい。




著:長谷川 進(㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)