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コラムColumn

海外進出のための物流拠点を考える(後編)

≪2018.02.23≫

◆ASEAN進出はさらに続いていく

 前回は海外物流ネットワークにおける拠点の選び方についての事例であったが、今回は海外現地の物流拠点のあり方について考えてみた。

 総合物流施策大綱(2017 年度~2020 年度)が平成2 9 年7 月2 8 日に閣議決定された。その中でも、現状の課題としてASEANとの関係の深化が言われている。従来の日本の中小企業はASEAN進出を「完成品メーカー」への納入を「安価な労働力」で対応するという「受け身」の姿勢だったが、最近では「現地市場の開拓・拡大」、「国内市場の成熟・縮小」といった自発的な進出理由が増加している。いわば「攻めの進出」になっている。

 このような事例としては、ベトナムへの進出がある。中国のコスト高の受け皿だけでなく、ベトナムの消費拡大によるベトナム内でのサプライチェーン構築である。弊社としては、ベトナムにおけるロジスティクスのあるべき姿を求めて現在、コンサルティング計画を検討中である。ベトナムにご興味のある企業のご担当者様との連携をお待ちする。 

◆日本企業の中国進出事例

 さて、これから述べる2つの例は、いずれもベトナムと同様、社会主義国への日本企業の進出とその国内物流拠点の選定事例である。

 最初のケースとして、高級消費財をグローバル展開している「C社」は従来から中国で一部生産し、その他は日本から主に中国のデパートに供給していた。中国のGDPが上昇することを見越し、北京と上海に大型の工場を建設し、中国国内の需要に対応しようと考えた。

 2大工場を建設するにあたり、地方政府との折衝を重ね工場設置が承認されたが、販売をデパートだけでなく、組織小売業や中国全土の専門小売店5000店舗に拡大する計画であった。そのためには各省にある有力代理商と契約し、5000店の小売店とはボランタリー契約を実施した。

 さて、この代理商や小売店への物流をどうするかが課題であった。弊社は、この戦略について「C社」から検討依頼を受け、上海の大学研究所や日本の大学教授との連携により基本戦略構想を策定した。

 今回は広大な中国での円滑な供給のためロジスティクスネットワークが必要であった。そこで各種調査を綿密に行い、2つの大型工場の隣接地に3PLの物流拠点を活用し、その2拠点から各省に供給するためのTCを各地に設置、物流ネットワーク構想を立案、併せてSCM的アプローチを進めた。この結果、計画通り、5000店舗への円滑供給ができたことで中国での販売シェアは1位になり、3PL倉庫の運営も需要予測モデル活用により中国全体の需要に対して適切な在庫で運用できている。また、物流拠点とTCの連携でリードタイムも安定的なレベルで維持しており、代理商や小売業にとっては「欲しいときに供給される」のでうれしさは倍増した。(このメーカーの商品は中国において、偽物が多く、この仕組みで安心してビジネスができる)

 このケースでは上海の大学との連携で中国の現状に適合したモデルを策定できたことがポイントである。

◆日本企業のロシア進出事例

 次のケースは小規模ではあるがロシアでの物流拠点の選定事例である。消費材メーカー「D社」の販社をモスクワに進出させた。

 ロシアの2大消費地としては、モスクワ近辺とサンクトペテルブルグ地域であり、残りは広大なロシア全体に散在している。極東へも供給する必要があるがその量は少ない。このため拠点設置の候補地としてサンクトペテルブルグとモスクワを候補とした。

 サンクトペテルブルグはロシアの海からのゲートウェイであり、物流上の優位点にあった。一方モスクワは一大消費地でありGDPもロシアの他の都市より大きい。販社が小規模なため、物流は3PLへの委託が条件であった。3PL業者については日系ではなく、仏系と現地業者を候補とした。弊社としては現地調査を実施し、場所と3PL選択そして規模の確定行った。

 まず、場所については消費地に近いことを第一条件としモスクワ近辺とした。3PLについては、現地企業は輸入手続きなど大変柔軟性があり素早いが、コンプライアンス上問題ありと判断した。また現地系3PLはその管理体制や運用状況を視察した結果、現場の環境や従業員の勤務態度が芳しくなく、仏系はトヨタ方式を採用するなど、管理上も厳格であり輸入手続きの遅延などがあったとしても「D社」にとっては企業姿勢に合致すると弊社は判断し、仏系を提案した。

 ヨーロッパからの輸入は海と陸路が選択できるが、陸路は安全性に課題があり、一方、サンクトペテルブルグ港の輸入通関時間が長いなどどちらにも課題があった。しかしながら十分実績のある海を選択し、センターはモスクワ近郊にある仏系の3PLとし稼働させた。

 小規模の販社であるがゆえに、できるだけ大きな消費地に近いところにセンターを設置し、ロジスティクスコスト低減と信頼できる3PL委託で販売に専念できることが重要だと考えた。このケースでは実際に現地を訪問し候補地や3PL視察で得た肌感覚も重要な選定条件だと実感した。

◆グローバルな視野とローカルな肌実感での拠点選定

 2つのケースともに社会主義国ゆえの特別な規制や日本企業にとってのコンプライアンス維持など難しい局面もあるが、できるだけグローバルな視野で正攻法で比較検討し最適なロジスティクスを選択することが重要だと考える。

 お客様の満足を得るための拠点選定をするには、グローバルな視点を忘れてはいけないが、一方では地域による特殊性もあるのでローカルな肌実感も大切なことであり、弊社は常に現地密着でコンサルティングを進めている。

 このほかにも、弊社は台湾における物流拠点の建設支援やブラジル物流会社へのシステム関連支援、タイにおけるサービス部品供給拠点の選定、ベトナムの物流情報現地調査など、グローバル・ロジスティクスへの対応実績がある。

 海外への進出におけるロジスティクス課題に対してご相談をお受けしますので、ご連絡ください。


著:長谷川 進 (㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)