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コラムColumn

海外進出のための物流拠点を考える(前編)

≪2017.08.15≫

◆グローバル企業の海外物流拠点のポイントとは

 グローバル企業においては、世界各国での物流拠点選定如何によって業績への影響や物流機能の進展度合いが異なることがあり、どこにどんな物流拠点を置くかは、慎重な調査・検討が必要である。

今回は弊社が過去のコンサルティングを通して行った海外物流拠点設置のポイントについて、事例をもとに考えてみた。

◆Case1:日用品・化粧品を展開でしているA社の場合

 まず、世界に日用品や化粧品を展開しているA社のヨーロッパ市場での事例である。

A社のヨーロッパ市場は、イタリアやドイツを筆頭にヨーロッパ全体に及んでおり、自社の販社と卸業の2つのルートで販売していた。日本から各社への物流リードタイムは発注から約3か月で納品するレベルであった。ヨーロッパとしてはリードタイムが長いため、何とか短縮させたい思いがあった。

また、大型の販社は船便がFCLとして利用できたが小型の販社や卸業は量的に少ないためLCLを使わざるを得ず、単位当たりの物流コストは大きいものであった。

 そこでヨーロッパに大型の物流センターを設置し、リードタイムを5日以内、物流コストを大きく削減することを目指した。ヨーロッパに設置する物流センター在庫は本社在庫とし、各販社や卸業はここから商品の供給を受けることとした。

 物流センター設置検討のポイントは

商品の多くは日本や米国から供給されるため、コンテナ船の入港頻度が多い港であること
一方でヨーロッパ全土に個別供給できる立地であること(港と陸路運送に有利な場所)
従来はFOBでの取引だったが、ヨーロッパセンターまでは幹線輸送、販社・卸業までは個別輸送となるため貿易取引条件をDDUとし商品価格に算入したこと (顧客への商品提供価格を平等にするため)

 が、挙げられる。

最も効果的だったことはリードタイムの短縮により在庫の適正化がはかられ顧客である販社や卸業のキャッシュフローの大幅改善が図られたことである。

このケースではドイツを選定したことで物流センター運営が安定したことに加えて、顧客にとって5日以内のリードタイムで自社在庫の適正化を実現でき大幅な経営改善がはかられたことだった。このように物流センターの選定が経営内容や業績まで左右するという事例である。

■Case2:自動車のサービス部品会社B社の場合

次に紹介するのは、自動車のサービス部品のアジア地域へのコンソリゼーションセンター設置を行ったB社の検討事例である。

自動車部品は生産部品の場合、ジャストインタイムの納品が必須であるが、サービス部品の特徴として、ジャストインタイム納品は不可能である。つまりアジア各国の自動車販売ディーラーや修理工場では必要都度サービス部品の発注を行いなるべく早いリードタイムで納品されることが望ましい。

一方で、供給する側は日本・オーストラリア・タイをはじめとするASEAN諸国の部品メーカーである。各国の部品メーカーがそれぞれのアジア諸国の顧客に個別に供給することは大きな無駄があるとの認識をもったB社は、自社の車の全部品をアジアのコンソリゼーションセンターに集約し輸送効率の向上と顧客のうれしさを最大化するため物流センターを設置することとした。

 検討のポイントは、

サービス部品の国別の需要予測シミュレーションにより、供給側の発送頻度やコストが物流センターの立地によりどう変化するかを把握すること
センターの立地により船便の違いがどのようにリードタイムへ影響するかを検討
物流センターの運営コストの違いがどの程度全体コストに影響するか

 である。

 これらを検討した結果、シンガポールとタイが候補にあがった。

 結果的に、船便がシンガポールのほうが多いものの、人件費や物流センター運営費が安価で部品メーカーの集積度が高いタイを選択した。このセンターはアジア各国からサービス部品を取り寄せ、必要な地域にコンソリゼーションを行い、顧客へのサービス向上を達成した。

メーカー側の効率化と顧客のうれしさを同時に達成できるセンターとして現在も稼働している。このセンターは、各国の需要を集約し供給側にまとめ発注し、可能な限り早期にコンソリゼーションを行い顧客にサービス部品を適正コストで提供することを最大の機能としている。

 上記の2つの事例はヨーロッパやアジアのハブセンターとしてどの視点から地域を選定するかを示した事例であるが、本事例から考えるに、海外進出時のKSFは代表的に挙げられるリターン・時間・フィジビリティ・自社風土や他戦略との整合性・リスクに加え、特に、運営コスト、リードタイム、コンテナ船の入選頻度などが大きいだろう。

◆今後の海外への物流拠点展開は…

 今回はタイ・欧州への物流拠点構築のポイントについて考えてみた。一昔前までは、グローバル展開を考えている企業にとって本地域は物流拠点構築の足掛かりとしては最適であっただろう。しかし、現状では人件費も高騰してきており、新たな地域への検討が必要となってきている(※1)。

その中で、近年、多くの企業が進出を試みている国一つにベトナムがある。ベトナムもアジアのゲートウェイとしての機能を基本的に備えており、人件費も他の国々に比べて抑えられることから、海外物流拠点として日本企業が注目している。

 弊社としても、過去の事例もふまえてベトナムが物流の視点でどのような優位性があるかを明確化し、拠点進出の支援する体制も構築しているので、是非ご相談いただければ幸いである。

 以上、前編では海外物流ネットワークにおける拠点の選び方についての事例を紹介したが、後編は海外国内における物流拠点のあり方について考えてみようと思う。


著:長谷川 進 (㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)

■参照

※1 投資コスト比較:世界の主要都市への進出関連のコストを比較(日本貿易振興機構)