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コラムColumn

ベトナム進出に際してのロジスティクスの側面からの考察

≪2018.09.11≫

◆はじめに

 ベトナムについては過去2回、コラムで取り上げてきた。今回はベトナム全体的なロジスティクス面での考察と、次回は、南部、北部の工業団地の状況と課題及び期待値についてロジスティクスの側面から考察してみたい。

 ベトナムの地理的条件については前回も述べたが南北に長く北部の首都ハノイ市と南部のベトナム最大の都市ホーチミン市間が直線距離で1700キロ、海岸線が3,200キロにも及ぶ細長い国土であり、文化や気候面で南北の違いが大きい。したがって、産業も南と北では異なった産業集積になっていることも、ベトナムの特徴といえる。

 隣国との関連で見ると、北は中国、西はラオス、カンボジアと接しており、シンガポール・マレーシア・タイ・ミヤンマーにも近い。タイへは、ラオスを通過する東西回廊、カンボジアを通過する南部回廊を使用して、陸路で数日で行くこともできる。このようなことも踏まえると、これからのアジアの中心としての位置づけも考えられる。

 それではまずベトナム全体についてのロジスティクス面での考察をしてみたい。

◆交通インフラの現状と課題、期待度

【陸路について】

 南北間の物流は、道路(一部高速道路)・鉄道・海路・空路があるが、コストの面、陸路の未整備部分があることから、現在はハノイ、ホーチミン間などの長距離は海路による内航船が主流になっている。ただし国内近距離は当然陸路が主流なので総物流量は陸路が70%を占めている。

 今後、高速道路・鉄道整備が現在計画され順次整備中なので物流手段の多様化に伴う、陸路のリードタイム短縮やコスト低減、物流品質の向上が大きく期待できる。

 また、隣国との陸路での連携手段として、東西回廊や南部回廊も整備されており、日系物流事業者も活用を増加しつつある。隣国間のトラックによる陸上輸送はベトナムからの帰り荷が無いことから(片荷状態)運送コストが割高になるため(海上運賃と航空運賃の中間程度)、納入を急ぐ重量物などのチャーター便が主体である。また、一部業者では定期便(混載便を含む)を開始しており、片荷の解消や物流量の増加が進めば将来的には有力な物流手段になる可能性は十分あると思われる。


【海路について】

 ベトナムには多くの港があるが、大半は小型内航船の受け入れが中心で中型船以上が入港出来るのは北部のハイフォン港、ラックフェン港(2018年5月に開港定)、カイラン港、南部のホーチミン港(カットライ港、サイゴン港、ビエンフック港等)、カイメップ・チーバイ港、中部のダナン港などに限られている。ただ、上記の港でも大型のコンテナ船が寄港できる港は少なく、欧米への輸出には、香港・台湾、シンガポールなどでの中継輸送が多い。

 欧米への大型船による直行輸送が出来るのは、現状、南部のカイメップ・チーバイ港、北部のラックフェン港に限られている。北部ハイフォン近隣に大型の深水港、ラクフェン港が今年5月に開港したことで、大型コンテナ船の活用比率が増えると思われ、欧米への直行コンテナ便が増加することでリードタイム、コスト、輸送品質の面で大きく貢献することになろう。


【空路について】

 ノイバイ国際空港(ハノイ市)、カットビ国際空港(ハイフォン市)、タンソンニャット国際空港(ホーチミン市)、ダナン国際空港(ダナン市)などの国際空港が整備されてきており航空貨物の利用も増加してきた。ただ、貨物専用便の運行については増えてきているが、未だ十分と言えない状況と思われる。


このように、ベトナムでは交通インフラが着実に整備されて来ており、ベトナム全体ではアジアのゲートウエイを目指せる環境になってくるだろう。

◆人的資源の現状と課題

 ロジスティクスを支える一つの要素として労働人口がある。ベトナムの人口は2016年で9250万人となり、世界で12位の位置にある。人口推移をみても、年々増加の一途をたどっており(近年は毎年100万人程度増加)、日本の少子高齢化とは対照的である。

人口の年代別構成比をみると、60歳以上の人口が非常に少なく、15~55歳までの労働人口層が非常に厚く(60%以上)産業を支える労働力が多く、ロジスティクスを含む産業にとって魅力的な国といえる。人口推移・分布から、ベトナムは豊かな国家を目指すには良い条件を有していると言える。

 物流業務の視点で考えると、流通加工、取引先個別対応、例外対応など属人的作業が必要な工程に対応しやすい。また、物量変動には、人員のやりくりで対応することが可能となる。ただし、それら人員配置のコントロール、管理面は体制を整えておく必要がある。例えば、人材確保手段・人員配置計画や人材教育などである。一般に、作業品質については、人材教育などの対応だけでは限界がある。

 加えて、将来的な人件費増加への対応も必要である。労働コストはGDPの成長により徐々に上昇する。長期的にみると、隣国の労働コストとの勝負になり、いずれは過去の中国と同様な立場になるだろう。労働コストの安価さでの有利性は長続きしないと考え、事前に対策を取っておき、物流機材、設備の整備・自動化・高度化も含め物流視点でのコストダウンと付加価値を考えなければならない。

 又、ソフト面での効率化、物流システム導入など品質確保と生産性向上の仕組み作りも検討しておくべきである。日系企業の新規進出においても、初期の段階で物流面でのシステム構築をしておくことで、競争優位の要因となるだろう。

◆開かれた市場と投資優遇措置

【開かれた市場について】

 ベトナム政府は、社会主義国家ではあるが市場主義経済を取り入れ成長しようと努力している。市場主義経済といっても、根源は社会主義国家なので国家の統制的な面があることは否めないが、それもだんだん解放されてきている。

 その第一は、国際化政策と全方位外交をとっていることである。WTOやTPP11にもいち早く参加、にも日本は勿論、欧米やその他のASEAN諸国とも自由貿易協定や経済連携協定、投資協定を積極的に締結し、ベトナムが開かれた市場であることを内外にアピールしている。

 領土問題などで摩擦のある中国とでさえ、最大の貿易実績を残している。また、対米接近を基本政策の一つとして推進しており、輸出量においては米国が最大である。

 各国はベトナムが開かれた市場だと認識し、こうした有利な投資環境(優遇関税等)を活用すべく多くの海外企業が進出してきており、この結果ベトナムの経済成長は著しく、GDPの伸びは7年間で2.7倍増加した。

【投資優遇措置について】

 ベトナムはアジアの中心という地理的優位性に加え、優秀で若い豊富な労働力、安定した社会と経済成長、9000万人の人口を背景とした将来性(生産基地のみならず大きな消費地になる可能性を秘める)等の優れた投資環境から近年、外国投資が着実に増加して来ている。

 それに加えて、ベトナム政府は、外国投資の積極誘致の姿勢から様々な優遇政策をとっている。投資対象の業種・地域・投資規模・労働者雇用等により様々な優遇措置があり、税制・関税等のメリットが受けられる。付加価値の高い分野の工業製品に対する優遇策や、経済・社会状況が困難な地域で操業する企業に対する優遇等である。

一方、ベトナムにもいくつかの課題があり、ベトナムへの進出を考えておられる企業様には、物流コンサルタントによる物流面のアドバイスのみならず、初期段階でベトナムの魅力と課題や進出手続きを熟知した弊社のコンサルタントのアドバイスを受けて頂ければ幸いです。


 次回は、南部、北部の工業団地の状況と課題及び期待値についてロジスティクスの側面から考察してみたい。


著:長谷川 進(㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)