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コラムColumn

ASEANへのゲートウエーとして日本が見るべきベトナム-2

≪2018.05.01≫

◆生産工場としてのベトナムの位置づけがそろそろ変化

 前回のコラムでは「世界経済は曲がり角か」という側面から日本としては、ASEAN重視政策が重要だと考えベトナムに焦点を当て、一般的な視点でベトナムがどんな国かを見てきた。

 ベトナムの魅力や課題をみてみると経済的には、日本の30~40年前に似ている。しかしながら、旧体依然とした部分とむしろ日本より進んでいる面とがまじりあった不思議な国と言える。

 例えば、ハノイにあるドンスアン(Dong Xuan)マーケットのように小規模店舗が密集した市場で庶民が日常品を買う姿は、昔の日本ではほとんどの地域にあった密集した市場と類似している。だが、現在の日本は組織小売業やモールなどに変化しており、ドンスアンマーケットもいずれは変化せざるを得ない業態だと考える。

 一方、科学技術の面で見るとベトナムはロボットコンテストの常勝国であり、また数学オリンピックでも好成績を上げている技術的な能力の高い国でもある。

 このような潜在能力や地理的条件が今後のベトナムの発展性を後押しし、今後日本が重点を置いていくであろうASEANへのゲートウエーとしてのベトナムの位置づけがみえてくる。

 低コストだけではないベトナムの潜在能力について「ロジスティクス」の側面から見てみよう。

◆ロジスティクスの視点から見たベトナム

 (1)使い勝手のいい海路から、今後の高速道路整備による国内物流の発展

 まず、ベトナム国内の物流は南北物流の手段として、高速道路・鉄道・海路・空路があるが、海路による内航船が主流である。特に北部、中部、南部を結ぶ海岸線の港は、ほとんどが大型コンテナ船は使えない反面、内航船やの使い勝手がよく便数も多い。

 現在、ハノイ、ダナン、ホーチミン、カントーを結ぶ高速道路を建設中であり、将来的には道路網の整備が充実することで陸路によるリードタイムの短縮、コストの低減、物流品質の向上が期待できる。

 (2)アクセスの良さを生かしたASEANへのゲートウエー構想

 一方、グローバルネットワークについては、特に中国に近接しているベトナム北部は、中国からの原材料調達などで地理的優位性を持っている。また日本からASEANを俯瞰してみると、アジアの中心に位置するベトナムは海上輸送の起点として、東南アジア全域へのアクセスが良いことから、将来は港の整備如何では、アジアのゲートウエーの一つに成長する可能性を秘めている。

 具体的には、日系企業が安価で技術的能力の高い労働力が豊富なベトナムに工場を設置し、製造した製品をASEANや日本へ輸出することが、日系企業のベトナム進出の主な形態であり、物流面でも合理的な流通構造になる可能性が大きい。


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「ASEAN・メコン地域の最新物流・通関事情」より引用( 日本貿易振興機構(ジェトロ) )


 (3)深海港の開発による大型コンテナ船の活用効果が大

 また、最大の輸出国である米国への物流は大型コンテナ船の運行が可能な深水港が少なく(現在は、南部のカイメップ・チーバイ港と北部のカイラン港の2港)、カイメップ港は就航便が少ないことに加え、ホーチミン等の生産拠点からの交通の便が良好とは言えず、搬送コストも高いこと、叉、混載用港内物流倉庫の整備も進んでいないことから利用率が高くなく、またカイラン港は世界遺産のハロー湾に近くコンテナ港としてはあまり使用されていない。

 したがって米国や欧州への長距離輸送はシンガポール、香港、台湾などでの中継輸送を行っているのが現状である。

 一方、ベトナム北部では、主要港であるハイフォン港が深海港でなかったが、ハイフォン港の近くに大深海港であるラクフェン(LACH HUYEN)国際港の開発と周辺インフラ整備が進んでおり、ラクフェン港が2018年5月に一部開港となる。

 ラクフェン港が本格運用されると大型コンテナ船が寄港するため欧米への長距離コンテナ便が中継輸送せずに運行できる。このため、ラクフェン港の開港がトリガーとなり、日本企業がベトナム工場で作った製品を米国へ直接輸出する3国間貿易が有利な条件で遂行できることが期待される。

 (4)ハイフォン近隣の工業団地の優位性も増大

 また、ラクフェン港の近辺にはいくつかの工場団地もありその中でも、最も近くの工場団地は広大で、所得税の軽減等諸条件も良いことからこれから日系企業が進出する場合の最有力な外資系工業団地の一つといえる。すでに、日系企業も大企業・中小企業を中心に入居稼働している状況である。

◆近隣諸国との陸路での物流

 ベトナムには陸路で近隣国へ輸送するための道路網の整備が共同で進行している。

 ① 中国の華南地区とハノイを結ぶ中越ルート

海路だと10日間かかるがこのルートでは約3~4日間で可能

 ② ハノイとバンコクを結ぶ東西回廊

ハノイで生産した電子部品や自動車部品がバンコクなどでの需要がある。海路では2週間だが陸路では3~4日間と価格は高いもののリードタイムの大幅短縮となる。逆のケースも増えているようだ

 ③ ホーチミン市とプノンペンとバンコクを結ぶ南部回廊

陸路と海路の日数が3~5日とほぼ同じだが、通過点であるプノンペンの荷物で特にアパレルが多いと聞く

 いずれも、片荷問題や通関手続き等ソフト面の課題があるが、かかる問題が解決し、 海路だけでなく陸路の整備と通関システムの合理化が進めば、現在のベトナムの状況が大きく変化し、将来、ASEANのゲートウエーの機能を持つ位置づけになることは遠いことではない。

◆頑張っている日系物流企業

 現在ベトナムでは、日系物流企業が50社程度(弊社推定)進出している。大企業から中企業まで様々な形態があり、物流専業企業や物流子会社、商社系物流会社などである。業務内容もフォワーダーから倉庫サービス、輸配送など企業により様々である。当初はクライアント企業の進出に伴い、進出するというケースが中心であったが、事業拡大目的や工場団地の開発とともに進出といったケースも増えて来ている。

 日系物流企業のクライアントは日系企業が大半であり、日系企業も日系の物流企業を使う企業が多く、期待する物流レベルも高い。これに対して、まだ完全ではないベトナムの物流インフラを駆使してクライアントの要望に応える姿勢は日系物流企業の大きな特徴といえよう。

 このようなことから、現時点でベトナム進出を検討している企業は、日系物流企業を活用することが得策と考えるが、将来的には優良な地場の物流業者の活用によりコストダウンを図るケースも増加してくると予想できる。

◆ベトナムにおけるロジスティクス・コンサルティング

 前回のコラムは、ベトナムがどんな国か、魅力や課題は何かといったテーマで見てきた。今回はそれをロジスティクスという側面から深掘りした。物流に関する課題は山積していると考えるが、その解決には日系物流会社が尽力していることも事実である。

 ただ、本質的で顧客側に立った物流改善を提案するロジスティクス専門のコンサルティング会社は、ベトナムにはないと認識しています。 弊社では、業態や進出地域によって最適な物流企業を選択するお手伝いやお客様への物流改善提案をしていますので、お気軽にお声がけを頂ければ幸いです。

 

著:長谷川 進 (㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)