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コラムColumn

総合物流施策大綱(2017年~2020年)について考える ~ サプライチェーンの効率化と付加価値を創造する物流 ~

≪2018.05.15≫

◆はじめに

 1997年に国際的に見て割高な物流コストを是正する目的で、時代を見据えた諸施策を政府として策定したのが総合物流施策大綱の初めである。その後ほぼ4年ごとに時代背景を踏まえ諸施策を次々と策定し、昨年最新版を閣議決定した。

 「総合物流施策大綱(2017年~2020年)」の概要は以下の通り6項目に大別される。(以下、国土交通省資料より抜粋)

①   サプライチェーン全体の効率化・価値創造に資するとともにそれ自体が高い付加価値を生み出す物流への変革(=繋がる)~競争から共創へ~

②   物流の透明化・効率化とそれを通じた働き方改革の実現(=見える)

③   ストック効果発現等のインフラの機能強化による効率的な物流の実現(=支える)~ハードインフラ・ソフトインフラ一体となった社会インフラとしての機能向上~

④   災害等のリスク・地球環境問題に対応するサステイナブルな物流の構築(=備える)

⑤   新技術(IoT、BD、AI等)の活用による“物流革命”(=革命的に変化する)

⑥   人材の確保・育成、物流への理解を深めるための国民への啓発活動等(=育てる)

上述した各項目について、全6回にわたって、弊社がコンサルティング会社として過去どの様な活動をしてきたか、そして今後これらの課題にどうかかわり、社会に貢献していくのかという視点から考えてみたい。また、今回のコラムをきっかけに、皆様にも社会に貢献していく物流とはどんなものなのかを考えていただきたい。

それでは、一回目として、サプライチェーンの効率化・価値創造について考えてみたい。

◆競争から共創へ(先行したトイレタリー業界)

 サプライチェーンのキーワードの一番目が「競争から共創へ」である。これについては、著者が経験したトイレタリー業界の例が最適だと考えお話ししたい。

 企業間の競争は激しく、そこでは無意味な競争により社会資源の浪費や人材不足(特に物流業界では顕著)が発生しており、企業自体もそれに気づいておりどうにかして競争から共創へと移行すべきだと考え始めている。ただし、それが自由競争を阻害してはならず、共創の範囲がどこまでかは、大いに議論すべき問題である。

 かつてトイレタリー業界はメーカー間の競争が非常に激しく、卸業の情報をいち早く入手し、最適な生産へと結びつけようと躍起になっていた。各メーカーは卸業に対して卸の販売データをはじめ受発注のデータ交換のために卸業にそれぞれメーカーが指定する端末設置の競争に入ろうとしていた時代でもあった。

 そうした状況が、将来的には業界全体の不利益なることを確信したトップメーカー(ライオン社)が、トイレタリーメーカ7社をかわきりに情報交換の仕組みを共同化することを提案し、公正取引委員会の承認を得て、そのための新会社プラネットを設立した。その時のキーフレーズは「競争は店頭で、システムは共同で!」であった。それが30年以上前のことであり、著者もその時の設立スタッフの一員であった。

 今ではSCMを円滑に実施するための標準化やシステム化のモデルとなり、現在のトイレタリ-業界のSCM効率化に寄与していると考える。公的機関が構築したものではないが、情報インフラの構築が業界のSCM推進のトリガーになったとも考えられる。そして業界地図も大きく変わった。このトイレタリーモデルは、いわば都市の水道管のようなものであり、必要不可欠の存在になり、かつ進歩し続けている。現在ではトイレタリー業界のみでなく、隣接する家庭用品、薬品、食品などの業界からの参加も多くメーカー数も631社にのぼる。

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【SCMインフラの象徴例】

 弊社としては、この仕組みをブラジルでコンサルティング活動を行い、EDI企業の設立と稼働支援コンサルティングを行い、現在ではブラジルの情報インフラの一つにもなっている。
さらには、化粧品の共同配送事業では化粧品6社の研究会の立ち上げやその後の推進体制の構築を進め共同配送の実現を果たし配送費の15%削減を実現した。また、共同化地域の拡大に際しては、6社の競売店舗数の実情分析と期待効果の試算など共同化の支援を進めてきた。このようなことから消費財の共同化ノウハウを活用したコンサルティングは得意分野である。

◆これからの共創

 我々コンサルティング会社としてどのようなアプローチができるだろうか。業界全体のSCM効率化について、業界のとりまとめの支援やシステム基本設計、実現可能性と期待効果の試算などは弊社のコンサルティング分野としてお客様への提案が可能である。

 実施に際しては、対象の業界人が主体となり、推進することが成功率は高い。つまり業界全体が共創の意味を実感していただき進めれば、必ずいい結果に結びつくと確信している。

 データ交換の標準化提案や共創を推進するための新情報技術のご提案についても弊社ではお客様の要望に応じて、適切なご提案が可能である。これは従来から行ってきた、標準化に対する姿勢や標準化案作成の無形のノウハウが可能性を高めるものである考える。

 業界全体での共創については、マーケティング分野では無理であるが、それを支える情報システムや物流の部分では必要かつ可能な分野であり、これらの部門を担当する企業人の積極的なアプローチが望まれる。

◆ アジアを中心としたサプライチェーンのシームレス化・高付加価値化

 上述の通り、国内のサプライチェーンの効率化のために、共創の考え方を大いに浸透させることが大切だということを再確認したが、もう一つ検討すべき課題として国際化、特にアジアとのサプライチェーンをどう考えるかということがある。

 中国との貿易額に匹敵するASEANは日本にとってこれからより緊密に、サプライチェーンを構築していく必要があり、かつそれを効率的に推進することが重要である。物流大綱ではNACCSの海外普及、越境物流促進がうたわれているが、すでにこれらの施策はアジア各国に普及され始めている。したがってこれからはその精度を大きく向上させていくことが大事であることは言うまでもないが、ASEANへのサプライチェーンのシームレス化や高付加価値化は物流面でどうすることが有効なのか考えたい。

 そのヒントは、日本とASEANの位置関係にある。日本の生産コスト高により海外(特に中国の安価な労働力が魅力で)への工場移転が頻発したが、ご承知のように中国のコスト高により再移転が必要な状況になってきた。中国+1としてベトナムが注目され実際に多くの日系企業が進出している。

 これ等の進出企業はまだ、コスト安という価値でベトナムを見ているが、育て方、使い方如何では高付加価値製品の生産を担える勤勉で優秀な若手労働力はもとより、日本との地勢的優位性から従来の香港やシンガポールといった港の機能をベトナムの各港がASEANへのゲートウエイとして見直されてくるだろう。なんといってもベトナムは地勢的にはアジアの中心に位置している。ベトナムの生産基地や日本からのASEANへの輸出に対してゲートウエイとして高付加価値を作っていく状況になるだろう。

 幸い、ベトナムの工業団地は港に近いものもあり、中型船のASEANへの運行も頻繁であるうえに、ようやく本格化し始めた国内の道路網の整備に加え、陸上輸送としてハノイとバンコクを結ぶ南北回廊やホーチミン市とプノンペンとバンコクを結ぶ南部回廊、ダナンからヤンゴンを結ぶ東西回廊などが整備されつつあり、日本企業がこれからのベトナムを含むAEAN市場を獲得していくうえで、一つの有力な進出国として認識しておくことが得策だと確信する。

 弊社は、ベトナムへの投資関連情報の提供や国際物流のシームレス化、ベトナム国内の物流について、これから積極的にかかわっていく。日系企業はもとより現地企業の物流効率化の実現にコンサルタントとして寄与していくことが大きな望みである。

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【ゲートウエイとしてのベトナムの状況図】

◆   最後に…

以上、サプライチェーンの効率化と付加価値を創造する物流についての弊社の実績と今後の進め方などについて述べてきた。また、国内だけでなくアジアを見据えたゲートウエイの位置づけとしてベトナムについて無言及してきた。読者の皆様にはぜひ参考にしていただきたい。

次回は、物流の透明化・効率化とそれを通じた働き方改革の実現(=見える化)について考察してみたい

著:長谷川 進(㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)