コラムColumn
ASEANへのゲートウエーとして日本が見るべきベトナム-1
≪2018.04.17≫
◆世界経済は曲がり角か、~ASEAN重視政策が重要~
米国のTPP離脱から、世界経済は自由貿易から自国第一主義的経済へと大きく舵を切る状況になりつつある。このような状況下で先を的確に予測することは、筆者の知識ではむずかしい面が多いが、普遍的に考えるとロジスティクスそのものの原理原則は、インフラ整備や地理的条件、そして顧客満足価値、GDPなどに依存して発展することだと考える。
米国と中国、欧州との貿易摩擦や関税の増率など、一歩間違うと貿易戦争に発展すると危惧されており、日本もその影響を受けることは避けられない。そういった問題はあるものの、日本が雇用創出や企業の成長のためのグローバル化をこれからも続けていくには、それらを支えるロジスティクスがどう改革されていくのか多角的に見ていく必要がある。
日中間の貿易額とほぼ同額なASEAN地域について考えたとき、成長目覚ましいベトナムがどの様な役割を持った国なのかをロジスティクスの観点から考察してみたい。
◆ベトナムってどんな国?
筆者は昨年10月に、ベトナムの現状把握のため訪越し、自分の目と肌でベトナムを実感してきた。同時に各種の調査やロジスティクスのインフラや今後の発展性予測など日本とベトナムの類似性や違いを現状調査した。
まず、国土は南北に長く面積は日本の約9割でその75%が山岳地帯で東側は、1700㎞に及ぶ海岸線である。この点では日本との類似点が多い。また、中国と隣接しており中国は最大の輸入国でもある。気候は南と北では大きく異なり、北のハノイは亜熱帯性モンスーン気候で四季があるが夏は40℃で湿度も非常に高い。一方、南のホーチミンは熱帯性気候で乾季と雨季があるが30℃と生活しやすい。
人口は9270万人(ベトナム統計総局)で50%が30歳以下で、就業人口は約60%おりピラミッド形年齢構成となっており、日本とは大きく異なる。
政治体制はベトナム共産党一党支配であるが、集団指導体制をとり、安定した政権である。中国の政治体制とは大きく異なり、また親日的だ。仏教徒が80%を占め、英語力は弱いものの、ベトナム語の識字率は93%と非常に高い国である。小職の独断ではあるが、日本人にとってはアジアの中で台湾やタイに次いで親しみやすい国かもしれない。
◆ベトナムの魅力
ベトナム進出日系企業数は、すでに1,673社にのぼり、中国+1、タイ+1の位置づけにある。当初は中国の人件費増加の影響でより安いベトナムへ移転していく企業が多いことは事実であった。しかしながらこれから述べるベトナムの魅力を理解いただき新な進出を検討する企業が増加することを期待したい。
コストだけではないベトナムの魅力とは…・
① 優秀で豊富な労働力
若い豊富な労働力(就労人口は60%)、ロボットコンテストや数学オリンピックでの好成績
② 安価な労働コスト
中国の1/2、タイの1/3
③ 社会の安全と安定
一党独裁ではあるがバランスの取れた政治
④ 9200万人の人口
人口と消費力(将来マーケットへの期待)
⑤ 日本人との類似性
仏教、儒教、農耕民族、中庸、勤勉、器用、向上心
⑥ 良好で緊密な日越関係
ODA、投資、貿易、日越投資協定など
⑦ 優れた投資優遇政策
優遇税制、共通投資法、統一企業法など、ベトナム政府は聞く耳を持つ政府といえる。
⑧ 地政学的優位性
ASEANと中国の中間(東西、中越、南北回廊)⇒陸路の整備で日本からの海路及び陸路活用のゲイトウエー
⑨ 国際化の推進
ASEAN、APEC、WTO加盟、日米を含む多くの国・地域との自由化協定締結⇒輸出時の関税優遇
◆ベトナムの課題
魅力の多いベトナムだが、当然、改善すべき課題もあり、いわば発展途上国であることから既存施設に拘泥されず、大きくステップアップする可能性が大きい。その課題と改善方向について言及してみたい。
① すそ野産業が弱い
設備、技術、経営において日越両政府で整備育成中。工業団地の積極開発やすそ野産業の支援政策、そのための賃貸工場の設置など
② 原材料の外部依存が高い
基礎産業(製油所、製鉄所、化学プラント)の積極誘致と新規建設開始
③ インフラの充実が必要
電力、道路、接道、港湾、上下水道について官民一体で推進。特に電力、道路、深海港は順調に整備中。
④ 中間管理層や熟練工が不足気味
人材育成がこれからの重要課題だ
⑤ 行政手続きの課題
煩雑さや不透明感があるが、地方政府の改革を待つことで改善されるであろう。
次回は、ロジスティクスの側面からベトナムを見てみよう。
著:長谷川 進 (㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)