コラムColumn
宅配事業の将来を考える
≪2017.07.02≫
◆EC市場の爆発的な拡大 → 人手不足の模索が必要!
近年、宅配事業者の労働問題・再配達問題が大きくクローズアップされている。その原因は、物流量の増大 ~特にECの大ブームによる小口物量の爆発的な増大 ~によるもので、物流業界にそのしわ寄せが直撃している。
「経済産業省統計」より引用
Web環境の進展によりネット販売による注文の増大が、これらをカバーする宅配事業者の能力を超え始めており、時間外労働や物流品質の低下、および再配達によるコストアップや従業員のストレス増加にもつながっている。
これらを放置しておくことは、今後、ますます成長するであろうEC業界においては、大きな阻害要因になるため、解決策を模索する傾向が顕著である。そこで注目されている解決策の一つとして宅配ボックスの設置と活用がある。
◆宅配ボックス設置の有用性を検証している企業も…
先月、パナソニック・エコソリューションズ社は福井県あわら市在住の共働き世帯を対象とした「宅配ボックス実証実験」の最終結果を発表した(※1、2)。
その結果の概要としては、以下の通りとなる。
期間:2016年12月~2017年3月末
結果:宅配ボックス設置により再配達率が49%から8%に減少
今回、パナソニック・エコソリューションズ社が行った実証実験では大きな効果が出たことが明白であり、解決策の一つとしては大変有力視される。
しかし、人手不足の問題は受け取り側(最終消費者)だけでなく、宅配業者側にも残っている。その一つに、行き過ぎたサービスの実施と過剰サービスに慣れすぎた最終消費者の実情がある。もちろん最終消費者の視点から考えれば、必要なモノが必要なトキに必要なだけ届くというのは素晴らしいことである。物流業界でも7Rの原則(※3)として広く知られている。
ただ、これは十分な人的リソースがあれば、の話である。一部宅配事業者は、サービスを行き届かせるために、配送費を値上するといった手段で対応している方向にあるが、それだけでは、このマクロ的な問題は解決できないと考える。値上げだけでなく物流フローを抜本的に見直し、荷主・物流事業者・最終消費者がすべて納得いく解決策が必要となるだろう。
◆宅配ボックスの活用を広げて行くために
一旦、物流事業者側の問題は置いておき、宅配ボックスの話に戻そう。
今回、物流業界の人手不足の解決方法として、宅配ボックスの活用にはいくつかのパターンがある。
パターンとしては、
① コンビニや駅などの公共的な場所に設置し消費者がそこで引き取るタイプ
ITとの融合を図り無駄のないセキュア―な仕組みを構築する。
② マンション設置タイプ
本タイプの課題として、マンションにおいては宅配ボックスの数が決まっており全世帯に対応しているところは少なく、業者間での宅配ボックスの争奪戦が発生している。
③ 戸建ての個人宅への設置タイプ(前述したの福井県あわら市の例)
これらのパターンは、宅配業者の再配達を回避するために有効な手段であり、また、消費者にとっても以下のようなメリットがあげられる。
① 再配達によるストレス(消費者も業者も双方にある)解消
② 一人暮らしの女性など対面を好まない消費者への考慮
③ 低コストでの大量輸送の実現
これは、コンビニや駅などに設置する宅配ボックスへの配送に該当しコストの低減と再配達の解消が望める。
④ 副次的効果として、消費者も時間を気にせず自由に商品を受領が可能
しかし、いずれのパターンにおいても、冷凍品冷蔵品の対応、大きさの限界など解決すべき課題はすくなくない。今後は、これらの課題をどのように解決していくか検討していく必要がある。
◆物流体制のあるべき姿について考えていく
宅配による物流問題については、実証実験などで明確になっている課題を解決し、消費者、物流事業者、流通事業者が三位一体でメリットを受けられる体制を作ることが、質的向上を図っていく点でも重要であろう。
また、宅配事業に限らず、物流業界では運転手不足が慢性的に発生している。これらの対策として船や鉄道へのモーダルシフト、共同輸送など、個々の企業だけでなく業界全体でこの課題に挑戦する時期が迫っている。
著:長谷川 進 (㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)
<参照>
※1 「宅配ボックス実証実験」最終報告書(パナソニック・エコソリューションズ社)
※2 宅配ボックス実証実験/再配達率49%が8%に激減(LNEWS)
※3 7Rの原則
ミシガン大学のスマイケイ(E.W.Smykay)教授が提唱した物流管理の原則で、適切な商品を、適切な品質で、適切な量を、適切な時期に、適切な場所へ、適切な印象のもとで、適切な価格で顧客に届けることが物流管理の基本とする原則