コラムColumn
ベトナム進出に際してのロジスティクスの側面からの考察(地域編)
≪2018.11.26≫
◆はじめに
今回は、ベトナムにおける工場団地の状況と今後の期待値について北部、中部、南部と地域別の特徴を中心に考えてみよう。そして、北部の中心都市であるハノイとハイフォン、南部の日本企業のあまり進出していないがこれから大いに進出が期待できる直轄都市カントー市についても考えてみよう。
◆ベトナムの工場団地の分布と産業の特徴
ベトナムの産業構造が地域により異なっていることから、工場団地の特徴も地域によって少し異なってくる。主要な工業団地の分布としては、北部がハノイ市やハイフォン市とその中間並びに周辺地域にあるハイズン省、バクニン省、フンエン省、ビンフック省、ハナム省を中心に全体の約30%、中部がダナンを中心に13%、そして南部がホーチミン市近隣のドンナイ省、ビンズオン省等や、ロンアン省、バリア・ブンタオ省、カントー市を中心としたメコンデルタ地帯を含め53%となっている。
産業構造の違いとしては、北部の特徴は自動車、バイク、携帯電話、プリンター等の電子産業を中心とした大型組み立て産業と部品産業に加え、ゴム、パルプ、機械、精密機械、金属を扱う地場企業を含む製造業者が多い。中部には日系企業は100社程度と多くはないが、石油精製、石油化学関連企業や製鉄業の日系企業の進出が見られる。南部については圧倒的に繊維衣料、医薬品関連、そして食料関連等の軽工業の企業進出が顕著である。これは歴史的に地場の軽工業や商業が発展していたためと思われる。
一方、北部については元々重工業、機械製造業が集中していたことに加え政府が主導的に外国製造業を中心とする投資を受け入れる政策をとってきたため、上述の様に大型製造業者や部品、資材、部品、加工事業者が多い。但し、日系企業が活用できる部品を製造するようなすそ野産業が未発達なため、部品を輸入しそれを加工し製品として輸出するEPE型企業が中心となっている(かかる製造事業を工業団地で行うことが成功の方程式と言われた時代もあった)。
また、日系や海外系の工業団地は、団地としてのインフラすなわち電力、工業用水、排水処理、電気・通信施設などが充実している上に、日本食レストラン等の生活インフラや団地内道路も整備され、景観も美しく、日本語での対応やきめ細かいサービスの提供もあるため、ベトナム現地の工業団地より賃料などコスト高だが、信頼性も高く、日系企業に好まれている。
これからのベトナム産業はインフラの整備&高度化に加え、すそ野産業の育成と、GDP成長による消費基地としての産業構造を作っていくための政治・経済的施策が重要だと考えている。
◆北部のハノイやハイフォンの期待値
2018年5月にハイフォン近隣に深海港であるラクフェン港が開港した。まだ2バースのみだが将来的には23バースまで拡張予定である。この開港により、従来小型船しか航行できなかったため欧米への輸出については大型コンテナ船へ香港やシンガポールなどで積みかえを行っていた貨物がラクフェン港からの大型コンテナ船による直行便輸送が可能になり、おそらく海上運賃、リードタイムの短縮などが実現し新たにASEAN地域のゲートウエーとしての位置づけも可能となってくるだろう。
又、このラクフェン港が開港したおかげで、副次的効果として、河川港であった従来のハイフォン地区の諸港はバージ船やRORO船での内航航路や近距離国際航路としてさらに発展するだろう。
ただ課題も多い。そのひとつは、ラクフェン港の後背地になるハノイやハイフォンとの陸路の問題であろう。日本の高速道路以上の高規格のハイウエーがすでに完成し利用されているが、高速料金が高いため、物流の利用頻度が極めて低い。これでは宝の持ち腐れになる。せっかくの大型深水港の開港が円滑に利用できない恐れが大きい。日本では川崎と千葉を結ぶ東京アクアラインも過去は同様な状況であった。しかしながら、高速料金を大幅に低減したことから、物流は勿論、交通量が激増したことは記憶に新しいことである。ぜひともこのような施策をベトナム政府は取るべきと思う。
◆南部の直轄都市 カントー市の現状と期待値
南部はホーチミン市を中心として、多くの工業団地があり、日系企業を含む外資の進出も多く、特に家電製品等の組み立て産業に加え、衣料や製靴、薬品・医療産業そして食品加工等生活物資関連の製造が盛んでありこれからのベトナム消費力の増大に対してはこの地域の頑張りがカギではないか。その中で、今回はメコンデルタ地域にある直轄都市カントー市について考えてみた。
カントー市はメコンデルタ地域の中心都市であるが、近隣にホーチミン市やその他の有力な省がり、そちらの地域が強力に工業化を進めてきたため、地理的条件も含め工業化が遅れている。そのため、工業団地も主要なものは計画中も含め8か所あるが、稼働中は5か所程度であり、現在工業団地への追加投資を勧誘している。
現在日本企業は10社程度がカントー市に進出しているが、大手商社が海老の孵化・養殖・加工製造・販売を合弁で行っているのが最大で、農器具会社は駐在員事務所での営業活動を行っている。そして、大手食品メーカーも1社進出している。その他の企業は、情報処理関連企業や革製品加工業、人材教育などを行う中小企業である。
このようにカントー市における日系企業の進出や活躍は未だ少ない。日系企業を支援するジャパンデスクができたのも2017年と他のベトナム各省と比べるとかなり遅れている。しかしながら、昨年度から日本企業に対するアプローチも積極的になり、投資誘致意欲も高まってきており、今年は日本にてカントー市による誘致セミナーも開催された。さらに、JICAの協力でカントー橋が完成したことでホーチミンとの陸路移動時間が3時間程度短縮され、従来より半減し物流面でも改善が見られる。
ただ、相対的に工業化が遅れていることから、物流についても未だ遅れている状況ではあるが、陸路整備計画、高速鉄道計画、空港整備計画もあり、将来は物流インフラの高度化が期待できる。又、このような状況を挽回するため、カントー市は他の地区との差別化を図り、メコンデルタならではの開発プロジェクトを推進中である。例えば、ハイテク農業団地や理数系の優秀な人材が確保できるため情報技術集合団地などユニークなプロジェクトがあり、日本企業の誘致に積極的なアプローチをスタートさせた。
以上の通り、カントー市はベトナムの他の地域よりは誘致政策が遅れていたが昨年JAPANデスクを設置し積極的な活動を始めている。このような状況にあり、今後の発展が期待できるが、日系企業の進出の勧誘のためには日系のロジスティクス企業の同時進出が不可欠ではないかと考える。又、日系企業でも水産加工企業や農産物特にカントー市産のフルーツを加工し輸出する食品加工企業の進出がメコンデルタの特徴と一致するのではないかと思う。
カントー市の研究を通じて、ベトナムは道路、鉄道、港湾、空港の整備が遅まきながら進んできたことで、これからのASEAN諸国の中でも発展性や成長性という側面から大きく変化すると予測され、目が離せない新興国だと感じた。
著:長谷川 進(㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)