コラムColumn
宅配の在り方の変化 ~ラストワンマイルと置き配~
≪2018.12.17≫
◆はじめに
最近ラストワンマイルという言葉が頻繁に聞かれるようになった。また置き配という言葉もよく聞かれる。
著者が第一回目のコラムで「宅配事業の将来を考える」というテーマで物流業者の人手不足や再配達の問題を考えてみた。その時はパナソニックが宅配ボックスの試験的導入で再配達率が49%から8%に激減したという試験結果であった。
パナソニック同様、再配達を激減するための置き配という仕組みを物理的なツールと消費者と配送業者を結ぶ仕組みを作ることで、安全安心な宅配の受領が可能となり、再配達コストも激減することが期待される。
一方、多様なサービスを開発し有利な競争状況を作るため、発送する荷主の方もお客様との距離を少しでも短縮しECの激烈な競争を勝ち抜こうと考えていることから最後の消費者への物流サービスを高めたいと真剣に考えている。
このようなことから、ラストワンマイルと置き配について考えてみたい。
◆ラストワンマイルとは
語源は、主に通信業界で使われている言葉で、直訳すると「最後の1マイル」になる。最寄りの基地局から利用者の建物までを結ぶ、通信回線の最後の部分で通信事業者と利用者を結ぶ最後の区間という意味である。
最近では、物流業界においてもこのラストワンマイルをめぐる攻防がある。消費者が小売店で商品を購入し自宅に持って帰るという行為は、日常的な光景だったが、今では多くの人が自分の好きな時間に注文できて、自宅まで届けてもらえるネット通販に頼り始めていることが、ECの爆発的な拡大につながっている。
例えば、ネット通販最大手であるAmazonが一大物流拠点政策から大型のフルフィルメントセンターをいくつも建設して、当日配達、翌日配達といった配送サービスを充実させるのも、このラストワンマイルを制するための動きだと言える。
つまり、Amazonなどの大手通販事業者が展開している、全国対応、当日配送、翌日配送サービスが良い例で、従来、拠点を集約し、配送の部分を宅配業者に委託する形で物流を構築していたものを、よりエンドユーザーに近い場所に配送拠点を設けることで、ラストワンマイルを縮めてサービス強化する動きが活発化しているということであろう。
今のところ、ラストワンマイルの配送は、大手宅配事事業者への依存度が高く、ECの拡大によって宅配サービスの取扱量が急増しており、ラストワンマイルの物流サービスのあり方を考え得るべき時期になっていると思う。
ラストワンマイルを今までの大手宅配業者だけで対応しようとすると多くの問題が発生する。現実に以下の現象が発生している。
• 宅配業者への配送料金が、見合っていない
• 年々増加し続ける宅配貨物の物量
• 再配達による業務効率の低迷(この点については後述する置き配で考える)
• 労働人口の減少や作業内容等の物流労働環境の問題により、物流の担い手が年々減っている
今まで常識であった宅配事業者の活用がままならない事態になると通販事業者はラストワンマイルの担い手をどう選ぶかが事業の成功に大きく左右される。
◆ラストワンマイルのための物流拠点の在り方
前述したように、Amazonは拠点集約から、フルフィルメントセンターを各地に設置しお客様との距離を縮める努力をしており、フルフィルメントセンターの仕組みとしては機械化が進み、現在のAmazonは通販業者から総合物流企業に変貌しつつあると考える。
また小規模の通販事業者は多くの拠点を持てないため、自社の拠点活用かまたは、通販専門のロジスティクスセンターを活用する方向にある。最近では通販専用のロジスティクスセンター事業者も増加傾向にあり、そのロジスティクスセンターは通販に関する様々なノウハウやシステムをたくさん保有し成長している。中小の事業者はこれらの通販専用ロジスティクス企業の活用が有利ではないだろうか。
小売店が実施しているネットスーパーのラストワンマイルの拠点は店舗となることが多い。これは一見、消費者に近いと思われるが、確かにそうではあるがいくつかの課題がある。店舗ごとに宅配要員を配置しなければならず、採算性に課題を残す。また、商品の在庫管理や商品のバージン性にも疑問が残る。この課題についてはいくつかの地域代表店舗に集約することでまたバックヤードの活用で解決する必要があろう。
いずれにしても通販事業の成功のキーの一つは自社に合った物流拠点の選定であろう。
◆ラストワンマイルの配送
現在もこれからもラストワンマイルに対応する運送事業者には大きな課題が残っている。それは人材不足の問題である。ラストワンマイルに限らず運送業界全体の課題であり働き方改革にも連携している。ラストワンマイルの配送については、
① 大規模拠点に絞ったECはヤマト、佐川、日本郵便、などの全国ネットワーク持つ大手宅配業者を利用したほうがいい。
② 拠点をなるべく多く持ち、顧客接近の事業者はそれぞれ地場の運送業者や赤帽のような軽トラックの利用や自社の配送便を持ちそれで対応することが一般的なように感じる。
③ いずれにしても運送事業について人材不足などから売り手市場であり、EC事業者としてはいろいろな手を考えていく必要がある。
④ 無人化やAI化などでは日本郵政をはじめとする数社がドローンの社会実験行っており、一方で2017年7月に公開した歩道を走る宅配ロボット「キャリロデリバリー」は、宅配やフードデリバリー業界の配達員不足解消に加え、買い物への支援を目的にしたものとして開発し、実用化も近い。
⑤ 働き方改革の方向では女性ドライバーの積極的活用(特にラストワンマイルでは、消費者との接点での女性ドライバーの有効性や小口配送による負担軽減などを明確化し積極推進するべき)。
⑥ 配送の自動化ではドローンや自動運転、配送ロボットなどIOTを使った次世代の運送がラストワンマイルでは大きな効果が出るだろう。
⑦ 各社の事業戦略は異なるものの抱えている課題はほぼ同じ状況だと感じる。インフラの満足度をどのように自社経営に連携するかは大きな経営戦略の一つだ。
各社には事業戦略上の様々な思惑があることは否定できない事実だが、このラストワンマイルを超越した流通構造の革新は社会全体の利益になり得るものでもある。実質的な問題だけでなく各社の利害関係の調整など時間がかかるであろう。つまり共同化の推進もラストワンマイルの有効性を確認する必要もある。しかしながら、まさにこのラストワンマイルを制するものが流通を制するだろう。
◆再配達の削減
パナソニックの宅配ボックス個人宅への設置実験で再配達率が49%から8%に激減したということで新たに再配達率削減に対して物理的改革やシステム的対応が盛んにおこなわれている。
まず、商品受け取りのタイプとして、ピックアップ型とデリバリー型があるのではないか。
【ピックアップ型】
① 店舗受け取り型
消費者が便利な近隣の店舗を指定してそこへ受け取りに行く。したがって、基本的に再配達は発生しない。
現在、セブン&アイ・ホールディングス(セブンイレブン、イトーヨーカ堂、ヨークベニマル等で実施。
② 受け取り専用ロッカー
駅構内やコンビニ、小売店内など利便性を重視した場所に設置する。これも基本的には再配達は発生しない。
西友の「うけとロッカー」やヤマト運輸の「PUDOステーション」や 日本郵政の「はこぽす」がこれに該当する。
これに対し、従来型である
【デリバリー型】
① 宅配専門業者による配達
このまま何の改善もしないと再配達率は下がらない恐れがある。
ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便などの大手宅配専門業者が該当する。
② 自社店舗からの宅配
自社店舗での消費者とのコミュニケーションをうまくとることで再配達率は減少できる。
イオン、ヤオコー、イトーヨーカ堂などが該当する。
◆置き配という考え方
そこで、再配達率低減のため置き配という考え方が新たに出てきたのかもしれない。
まずは、日本郵便が先頭に立って実証実験をしている。配達時に不在の場合、玄関先に荷物を置いていく、いわゆる「置き配」の実証実験である。配達側と受け取り側双方に大きなメリットがある。近年、ネットショッピングによる配達の増加により再配達の多さも問題視されていたが、「置き配」により負担を減らすとともに、受け取り側も不在でも荷物を受け取れるという大きなメリットがある。
一方、盗難のリスクなどもあり、アメリカなどではこの置き配での盗難が社会問題にもなっている。そのようなことも踏まえ実際に「置き配」を実施した場合の問題点を見極めるのが今回の実証実験であろう。
具体的なツールとして「OKIPPA」を使用している。「OKIPPA」は小さく折りたたんでおける「OKIPPA」バッグをドアにつるしておき、配達員にバッグの中に荷物を入れておいてもらうことで「置き配」してもらう方式となっている。宅配ボックスのような購入コストがあまりかからない点、専用のバッグさえ購入すれば利用できるのは便利である。
OKIPPAについて気になる方はこちら↓
OKIPPA 置き配バッグで受け取りをもっと便利に(運営会社:Yper株式会社)
ただ、置き配サービスは「荷送人と受取人が同意した場合・特定の事業者のみ」の利用となるので、送料の設定次第では一気に認知・普及する可能性もある。反対に盗難などのリスクで普及しないこともと考えられる。
この「置き配バッグ」を利用すると、システム的なサービスも受けられ、荷物が届いたときに専用のアプリに配達完了のお知らせが届くほか、有料オプションに加入すれば、3万円まで盗難などの補償をしてくれる仕組みになっている。
他の例として、アスクルが個人向け通販「ロハコ」の利用者向けに、玄関先など指定の場所に荷物を置いてもらう「置き配」や段ボールの回収サービスを開始する。
置き配は再配達削減のため、ネット通販各社や宅配事業者が導入を進めており、アスクルは新サービスで再配達率を1%台まで減らすことを目標にしており、他社の置き配と違い、配達員が荷物を置いた場所を撮影して購入者に専用アプリで写真を送って知らせることで、安全な荷物の受け渡しを確保するのが特徴だ。
しかし、この置き配で、盗難についての対策を明確化しないと普及しない恐れもある。
その対策は
① バッグとドアをワイヤロープでつなぐことによって、簡単に持ち出せないようする。
② バッグには特殊な形状の防犯ファスナーが使用、ロックをかけると開かない。
③ また荷受人が外出中に荷物が届いているかどうか確認する場合は、専用アプリの追跡機能で知ることができる。
だが、課題はまだある。利用制限は3万円以下で生鮮食品は利用できない。また、マンションなどの共用部分には物を置けないなど解決すべき点はかなり多い。流通大手イオンではネットスーパーで約6年前から置き配サービスを導入しており、2019年からは日本郵便をはじめとする各社が置き配を導入拡大することが予想され、これが飽和状態のECのラストワンマイルの切り札になるかもしれない。
著:長谷川 進