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コラムColumn

商流の変遷に伴う物流拠点の変化

≪2018.03.19≫

◆商物一体の流通

 小職は40数年前、日用品・化粧品メーカーに入社した。そのメーカーは自社の販売会社を通して薬局・薬店・化粧品店に商品を卸していた。当時の物流のスタイルというと、メーカーや卸業は、自社の営業所の中に商品や販促品を在庫し、社員が同時に配送も行っていた時代であった。商物一体の営業体制で、営業拠点兼物流拠点が一般的であった。 

 この会社はボランタリーチェーン制度を展開しており、小売店には大型店が少なく(ただしデパートはあった)個人商店が主体であった。この場合は、ビジネスも人的関係が密であり、小規模な商店を対象としていたため、営業マンが小売店と密な関係を維持するため、全国で100か所の営業所を設置し、そこに在庫を保有し直接社員がお届けする体制もとっていた。

 これは小規模小売店が多いため大量の在庫を一か所に保管するよりも在庫を分散して保有するほうが顧客サービスになっていた。ただ、在庫が分散している分、品切れリスクや総在庫が課題となりやすい傾向にあった。そして当時の物流インフラでは地域内での物流はうまくできても全国をカバーするまでの力もなかった。

◆組織小売業の台頭と商物分離への移行

 その後、組織小売業が台頭し始め、メーカー主導型のプッシュ型営業から小売り主導のプル型営業へと営業体制も徐々に変化してきた。また消費者の嗜好も多様化し、小売店ではPOSによる売上管理システムが普及し小売店での在庫管理もきめ細かくなってきた。

 このようなことから、営業拠点に在庫を抱えるよりも、営業と物流の拠点を分離した方がより効率的と考えるようになり、商物分離が始まった。ただ、一口に商物分離といっても、なかなか手元に商品を置いた営業体制からの脱却は難しいものがあった。事実この会社でも工場在庫を管理する2物流センター、販売物流を管理する8商品センターに完全切り替えする期間として約8年程度かけざるを得ない状況だった。この体制になって完全に商物分離となった。

 このメーカーの全国物流ネットワークは、機械化率が高く80年代から自動倉庫やオートピッキング、デジタルピックカートの採用そして自動補充によるタイムリーな在庫管理を実現したことで、当時としては大きな反響を得た事例であった。商物分離により100か所の在庫拠点が9か所に集約されたことで、在庫管理精度も飛躍的に向上し、集約効果による在庫削減も実現できた。

◆組織小売業との連携で流通システムが成長

 その後、組織小売業の売上比率が大幅に向上してきたため、組織小売業との物流情報システムの連携も重要となり、EDIの普及や検品レスの納品体制も重要事項となった。ここでメーカー主導の物流から小売業主導の物流へと大きく変化してきた。

 一方で、メーカーとしては物流サービスの質的向上を図り同時に在庫の効率化もさらに進める必要が出てきた。また、物流インフラとしての輸配送サービスの向上もあり、更なる拠点の集約によるサービス向上と在庫の適正化をはかる機運が生まれ、現在ではこのメーカーは、2物流センター、5商品センターへと拠点の集約が進んできた。商流の変化が「物流がロジスティクスへと近代化する」大きな要因といえる。

 商物分離により物流はロジスティクスという別角度からのアプローチで各企業が臨み、また組織小売業が隆盛を図ってきた時代がシステム化の進展を大きく支えてきたといえるだろう。だが、現在では零細小売業の衰退と組織小売業からモール化そしてECとオムニチャネルという考え方に変化を遂げてきたことにより、さらにメーカーの流通に対する考え方や物流対応も今後大きく変化をしていくだろう。

 

◆オムニチャネル化に対応するロジスティクスの変貌

 一方で、ECの爆発的な普及でこのメーカーも通販事業としては最後発メーカーではあったが、大規模な体制でEC事業を推進し、今日ではEC売り上げの比率も大きく伸長しており、ロジスティクス体制も大幅に強化している。

 ご承知の通りECの顧客は最終消費者であり、宅配事業者との円滑な連携は必須であり、また商品のみではなく宅配で受け取るときの「消費者のうれしさ」を具現化できるような包装や梱包、サービス内容となっており、これを十分に実現するため、EC専門のセンターを新設しユーザー目線での対応を図った。社内のEC売上比率も向上し、現センターの能力拡大を計画する段階にまできており、リスク管理も含めセンター体制の再考が必要な状況となっている。

 ECの爆発的普及は商物一体化から商物分離を経て、形を変えた商物連携の仕組みといってもいいだろう。物流センターから配送するチャネル、店舗から直接配送するチャネルといろいろ試行錯誤の中から、より良い仕組みを見つけ出さなければならない。 

 時代とともにサービスと効率化がそのインフラや消費者動向で異なってくることから、常に柔軟な物流体制を確保していくことが大切である。しかしながら、昨今の労働力不足により宅配サービスの維持もますます難しくなっている。労働力不足は輸配送に限らず、ロジスティクス全般に大きな影響を与え始めている。第一回目のコラムでも言及したが、宅配ボックスの実用化実験や無人運転の実証実験、ピッキングの自動化など物流業界や荷主そして顧客がともに共存共栄できる仕組みの構築が急がれる。


著:長谷川 進 (㈱東京ロジスティクス研究所 顧問)