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コラムColumn

モーダルシフトはドライバー不足を補えるか

≪2019.06.15≫

◆はじめに

 以前のコラムで「総合物流施策大綱」について6回にわたって考えてみた。この中で、モーダルシフトやモーダルコネクトについて今後のロジスティクスの危機を救う一つの手段とし、取り上げたことがあるモーダルシフトについては昔から、トラック輸送を鉄道輸送に切り替えることで化石燃料による二酸化炭素発生での温暖化や地球環境負荷を少なくする取り組みがなされてきたが、JR貨物の輸送能力や輸送タイミングの不自由さでなかなか進まないという実態があった。
 また企業も環境保護についてそんなに真剣に取り組んできたといえない。

 しかしながら、近年は温暖化の加速により異常気象の増加で自然災害が極端化してきたことは、個人個人が肌で感じ取っていることでもある。国際的にもパリ協定を基本とした、COP24がポーランドで開催され、各国の一応の危機の共有化と対策の進め方の方向性が図られた。
 これに加え、EC(電子商取引)の急激な発展により、ロジスティクスにおけるドライバー不足が深刻となり、企業もモーダルシフトについて徐々に採用してきている状況にある。さらに、JR貨物の対応も昔と大きく変わり、国内長距離大量輸送の覇者としての戦略に大きく舵を切ってきた。さらに企業側もトラック輸送に依存しすぎる状況が企業経営に大きく影響することから、モーダルシフトやモーダルコネクトといった手法を採用し始めた。

 今回は、トラック事業やJR貨物、内航船やRORO船、国内航空貨物の現状を把握し、これからのモーダルシフトやモーダルコネクトはどうあるべきかを著者なりに考えてみたい。

◆トラック事業の実態

 国内貨物輸送量のトンキロベースではここ数年来ほぼ横ばいになってきている。手段別には、トラック輸送、内航船輸送、JR貨物の順になっておりトラック輸送はいまだに多くの物資を輸送する手段として重要な地位を占めている。
 国内貨物輸送量はほぼ横ばいもしくは減少気味だが、輸送件数をみると小ロット輸送が増加して輸送件数は大きく増加の状態にある。(国土交通省調査)
5年ごとの国土交通省による物流センサスによると、輸送機関別に輸送量の増減率を見ると、トラックは2005年→2010年→2015年と前回比で出荷量が減少しているが、今回調査(2010年→2015年)の減少率は縮小している。

 一方、鉄道と海運は、2005年→2010年で20%以上減少していたが、2010年→2015年で各々18.1%、28.2%増加に転じた。また、航空は輸送機関の中で唯一、2005年→2010年→2015年で前回比が増加している。

  このように、トラック輸送の総量は減少気味だが、出荷件数でみると小口化により大幅に増加しているとみられる。これに対しトラックドライバーの推移は、国土交通省の調査では2010年の128万人(64歳未満が84%)に対して、2030年には115万人(64歳未満が68%)と大きく減少すると予測している。
 これは全体の人口減少の影響が最も大きいが、ドライバーの労働時間改善基準の順守により、実労働量が減少していることも影響している。この対策としては、荷受待ち時間の減少や、荷役作業の軽減によるトラガールと呼ばれる女性ドライバーの積極的な採用を行う企業が増えてきている。さらには、IOTやAIによる自動運転や大型連結トラックの活用等、トラック業界自体の効率化も進めている。

◆内航船やRORO船の状況

 内航船には、RORO船、油送船、一般貨物船、コンテナ船、ケミカル船、自動車専用船、LPG専用船、セメント専用船、石灰石専用船、砂利専用船、工業塩専用船など様々な形態がある。一般的なトラックからのモーダルシフトがしやすいのはRORO船や一般貨物船、コンテナ船などである。

 RORO船とは、貨物を積んだトラックやシャーシ(荷台)ごと輸送する船舶で積載効率では一般貨物船やコンテナ船には劣るが積み下ろしが短時間で効率的にできることが特徴である。一般貨物船はバラ積み貨物船ともいわれ日本船籍は1,041隻あり、国際的には3大バラ積み国といわれている。ただ内航船として運用されている船数は不明。内航船としてのコンテナ船は現在、数少ないと推定される。それは外航船の場合全工程で見るとコンテナ積み下ろし時間の割合が相対的に少ないのに比べ、内航船の場合は走行距離が少ないため、積み下ろし時間が課題となる。
 現在、井本商運が最大手で運行している状況である。

◆国内航空貨物

 国内航空貨物量の推移をみると平成 20 年度にトン数ベース、トンキロベースともそれぞれ過去最高水準を記録したが、リーマン・ショック等に伴う景気後退の影響を受けて、21 年度の貨物量は急落し、その後、23 年度まで3年連続の減少となった。24年、25年は省増税の影響で増加したが、それ以降は停滞状態が続いている。(国土交通省調査より)

 国内航空貨物を小口扱、混載扱、宅配便別にみると、混載扱が件数では6割以上、個数では8割弱、重量では8割以上を占めている。次いで、宅配便が多く、小口扱いは10%にも満たない状況である。この状況で取扱量の多いのはやはり主要空港であり、特に後背圏の広い羽田は扱い量が多い。さらに機体の小型化が進みコンテナ搭載が出ないケースが多くトラックで羽田まで運び活用するケースが多くなっている。
 いずれにしても、スピードでは航空機が勝るため、今後はモーダルシフトの対象となることが予想できる。ただコストの面や対象物の範囲から見るとモーダルシフトの幅は狭いと予測する。

◆JR貨物

 JR貨物は、全国規模での営業を続けることとなり設立された会社であり、ほとんどは旅客鉄道会社の保有する線路を賃借して営業している。従来はこの環境の中でなかなか実績を拡大できない状態が長く続いていたが、近年は環境に負荷をかけないモーダルシフト政策や、深刻なものになりつつあるトラックドライバー不足問題から減少に歯止めがかかり、僅かながら増加に転じている。

 JR貨物では、貨物列車の増発やスピードアップ、IT-FRENS&TRACEシステムの導入、貨物駅のE&S方式への改良、M250系貨物電車の運行など、ソフト面・ハード面の充実でサービスアップを目指している。JR貨物の活用メリットは次の4つに纏められる。経済性、安全性、柔軟性、環境性で他の輸送機関より勝っている点があるが、経営資源としての線路の利用限度が有限であるという現実はある。

 経済性としては、中長距離輸送では物流コスト低減に優位性があること、そしてトラックドライバー不足への有効策になること、また一本の貨物列車で大型トラック65台分の貨物を輸送できることなどがあげられる。
 安全性としては、JRグループのダイヤ運行管理により定時性が高いこと、ITを活用した信頼性の高い運行システムを採用していること、RFIDタグを活用したリアルタイムコンテナ位置管理ができることなどで信頼性を高めている。
 柔軟性としては、全国約150の貨物駅ネットワークを構築していること、JRコンテナはいつでも片道のみで利用可能であること、貨物駅でのコンテナ無料一時留置サービスを提供していることなどフレキシビリティがある。
 環境性としては、CO2排出量の削減(営業用貨物トラックの1/11)や省エネルギーおよび交通渋滞の解消に役立つことなどがあげられる。

 現在隅田川貨物ターミナル駅と全国約150の貨物駅ネットワークが定時運行を進めているが、さらに東京都品川区八潮に巨大な東京貨物ターミナル直結の「東京レールゲート」を2019年から2022年にかけて建設し利用者の利便性を格段に向上させる計画となっている。

◆モーダルシフトはドライバー不足を補えるか

 上記のように、輸送手段としてはトラック、船舶、航空機、JR貨物などあるが、現在社会問題ともなっているドライバー不足やドライバーの働き方改革をいかにうまく対処し、ロジスティクスの将来性を担保していくかがこれからの大きな課題であると認識し、国交省も具体的対策や補助金など積極対応している。
 ただ、トラック輸送を単にJR貨物にモーダルシフトしようとしてもそこには、いろいろな課題があり簡単には効果は出ないだろう。例えば、長距離輸送におけるトラック輸送分をどの程度JR貨物が受けられるのかは、物理的限度もある。

 また、荷主の方も過剰サービスによるリードタイム短縮競争を節度あるものとしないと、モーダルシフトはうまく機能しない。そこでモーダルコネクトという考え方が出てきている。単にトラック輸送をJR貨物にシフトするのではなく、トラック輸送とRORO船とJR貨物の組み合わせが有利な経路もあるのではないか。現にドライバー不足対策として、RORO船ではドライバーは発地と受地でのみ必要であり、その間、ドライバーは不必要だ。

 例えば東京から沖縄への大量輸送は、東京から福岡までJR貨物を利用し、福岡から沖縄までRORO船を活用そして接続部分でトラックの出番となる。これが、モーダルコネクトともいえよう。
 日本の老齢化は即座には解決しないのでこのようなモーダルシフトやモーダルコネクトは有効な手段といえるだろう。さらにこれからはIOT、AI、ビッグデータ処理などで無人化や自動化が進むことも期待は持てる。
 さらに働き方改革により国交省が女性進出のためのトラガールプロジェクトを作り、積極的に女性トラックドライバー育成に乗り出していることも評価できる。すでに女性ドライバーの構成比が高い会社も現れてきている。ドライバー不足を解決する手段として、モーダルシフトやモーダルコネクトそして無人化や自動化、トラガールの育成などもあるが、最終的には荷主のサービスレベルの適正化が一番の課題ではないかと著者は考える。

著:長谷川 進